-
前置き
治療回数で、何回で補綴物(被せ物、詰め物)が入りますかということはよく尋ねられます。しかし、考慮すべきことが多く一言でいえません。補綴物を入れる前に必要な治療がいくつかあるからです。それについて説明していきます。
-
(1)歯周治療(歯周病・歯周疾患・歯槽膿漏の治療)
補綴物(保険、保険外)を作る前に歯周治療(歯の掃除)を終わらせておく必要があり、例外はありません。理由は簡単で、印象(補綴物を作るための型)がキレイに取れません。そのため治療回数については、歯周病の進行具合によって回数は変わります。
平成31年3月19日に厚生労働省医政局歯科保健課発表の「歯科口腔保健に関する最近の動向」のレポートの冒頭に、「成人の約7割が歯周病に罹患。 歯肉に所見のある者の割合は減少しているが、進行した歯周病のある者の割合は改善していない」との報告があります。実に7割の方は歯周病にかかっているという実態が明らかになりました。歯周病の特徴は自覚症状がないことです。そのため、自覚されていない方も多いです。補綴物(被せ物、詰め物)だけを希望しても、実は歯石が沈着していて、歯周治療が必要なことの方が多いです。このような場合でも、必ず歯周治療を行ってから、補綴物の治療に入ります。
それでは、歯周治療は何回かかるのでしょうか。これに関しては患者様の歯の状態によります。参考写真(歯周治療の進行具合)をご覧ください。進行具合でも、初期から重度、写真にはないですが、もう一つ末期があります。1本の歯において、四つの病気の進行状態が考えられます(初期、中等度、重度、末期)。さらに、健康な方なら28本(親知らずなし)あります。28本は一本一本歯周病の進行状態を診断していきます。さらにいうなら、臼歯(奥歯)なら近心(手前)と遠心(奥側)で進行状態が違う人もよくいます。
保険で歯周治療は行えますが、保険診療だと治療に際して、ある程度の制約がかかってきます。例として、治療部位を6ブロック分けして治療するなど、治療に関してルールがあります。患者様のご希望にそえないこともあります。
当たり前のようですが歯の本数でも違います。歯が28本ありある程度歯周病が進行している方と、2本しかない方では回数は違います。
以上を踏まえたうえであえて回数を書くなら、おおよその回数とあらかじめ断っておかないといけません。また、28本(親知らずを除く)ある場合での回数です。
初期 :2~3回
中等度:5回~10回
重度 :10回(10回以上の場合もあり得ます)注:歯周治療は週1回が原則です。処置をしたら次の処置まで1週間以上開ける必要があるということです。場合によっては2週間間以上を開ける処置もあります。これは処置してから歯茎の回復を待つことが必要なためですが、保険で決められているルールでもあります。
-
(2)根管治療
根管治療は麻酔抜髄処置(生きている歯の神経を取る治療)、感染根管治療(すでに神経を取っているが、問題があって行う根管治療)の2種類があります。圧倒的に後者の感染根管治療の方が多い傾向にあります。どちらも保険で行えるのですが両者ともに、根管治療回数ははっきりいってわからないと答えるしかないと思います。
理由を一つずつ挙げていきます。まず1番目として、麻酔抜髄処置と感染根管処置では回数に開きがあります。感染根管治療の方が回数は増えます。2番目として、部位による違いもあります。前歯などは1根ですが、大臼歯は神経が3本の方が多いですが、4本ある方も珍しくありません。当然4本ある方が、回数は多くなります。
3番目は、根の形態が根管治療の回数を左右します、これはかなり回数に関係してきます。まっすぐな根と曲がっている根では、曲がっている根の方が回数は増えます。さらに回数に影響を与えるのは、4番目として根の先の病気です(根尖病巣)。これがあると回数はまったく不明です。すぐよくなる人は問題ないのですが、治りが遅い場合は回数が増えます。根尖病巣の有無は、レントゲン写真を撮ると一目瞭然です。
根管治療の必要性を付け加えますが、根管治療の次は補綴物の治療に進みます。補綴物は、問題なく機能して噛めるようになるでしょう。しかし、根管治療に何か問題がある場合は根の先が腫れてしまい、場合によっては再度根管治療が必要になります。そうなるとせっかくの補綴物も外さないとできません。そのため、きちっとした治療が必要になります。つまり、回数を決められない治療なのです。また、根管治療は変化がなくわかりにくく、毎回同じことをしていると思われがちです。
治療回数を知りたかった方には不十分かもしれませんが、きちんとした治療のために治療回数を明記できないことをご理解ください。 -
(3)抜歯を行った場合
カリエスあるいは歯周病が進行して、歯が保存できなくなった場合に、歯を抜く処置が必要になります。その場合、歯を抜いたままで何もしないのは親知らずを抜いたときぐらいです。歯を抜いた所を何かするのは、欠損補綴(歯のない所を人工物で補う)ともいいます。年齢・病気などで多少違いますが、3ヶ月は待つ必要があります。
実際の診療では、歯を抜いてすぐにブリッジや義歯は入れられません。患者様としては噛みにくのですが、歯肉がどのように治るかは、実際治ってみないとわかりません。理由として、治った歯肉の形に合わせて、作らないといけないからです。 -
(4)ファイバコア
注:(1)歯周治療、(2)根管治療が終了している状態からの回数です。
1回法と2回法があります。1回法はお口の中で造ります。そして2回法は一度印象して、口腔外で作ってきます。2回法は治す歯の数が多い場合は、2回法で行いますが、通常は1回法で行っています。 -
(5)補綴物(被せ物、詰め物)の治療回数
セラミック
注:上記の(1)歯周治療から(4)ファイバーコアまで、すべての工程が終了している状態からの回数です。
(A)e-max、エンプレス、Z冠(単冠)
(B)Z冠(ブリッジの場合)
(C)ジルコニア+ e-max(A)e-max、エンプレス、Z冠(単冠)
1回目:診査・診断および説明
2回目:形成・印象・咬合採得・仮歯の作製
3回目:装着(セメントという接着材で歯に付けること)
注:1回目は他の治療と一緒にやる場合は省略できます。その場合は2回で治療が終了します。(B)Z冠(ブリッジの場合)
1回目:診査・診断および説明
2回目:形成・印象・咬合採得・仮歯の作製
3回目:仮着(一度仮止めをして、噛み合わせをみます)
4回目:本着(セメントという接着材で歯に付けること)
注:ただ、1回目は他の治療と一緒にやる場合は省略できます。その場合は3回で治療が終了します。(C)ジルコニア+ e-max
1回目:診査・診断および説明
2回目:形成・印象・咬合採得・仮歯の作製
3回目:内冠試適(内側のジルコニアの部分の適合の確認)
4回目:仮着(一度仮止めをして、噛み合わせをみます)
5回目:本着(セメントという接着材で歯に付けること)
注:1回目は他の治療と一緒にやる場合は省略できます。なお、4回目が不要な場合は省略します(噛み合わせが難しい人や、色にこだわりたい方は仮着で様子を見ます)。インプラント
注:手術の際にお口の中がきれいであるのが必要不可欠なので、歯周治療がすべて終わっている必要があります。
1回目:診査(CTを含むレントゲン写真、口腔内写真等)
2回目:1回目の審査で診断を行い、その説明
3回目:インプラント1次手術
4回目:インプラント2次手術(1次手術から3~6ヵ月後)、仮歯作成
5回目:インプラントの上部構造の印象(2次手術から4~6週間後)
6回目:上部構造装着、仮着
7回目:本着
合計7回で一つも省略できない手順です。 -
(6)金属床義歯
注:上記の(1)歯周治療から(5)補綴物まで、すべての工程が終了している状態からの回数です。
1回目:診査、各個トレー用の印象(義歯の印象採得するトレーを作るための印象)
2回目:義歯の印象
3回目:咬合採得(上と下の顎の位置を決める処置)とフレーム試適
4回目:仮床試適(仮に歯を並べて見てもらう、見た目や噛み合わせのチェック)
5回目:義歯装着(完成)
6回目:調整
注:1回目は他の治療と一緒にやる場合は省略できます。それと、4回目は、噛み合わせが難しい人や、色にこだわりたい方はもう1回修正して見ていただくこともあります。また、5回目で問題もない場合には6回目は不要です。しかし、食事をしてみると何かあることもあるため、調整することも珍しくありません。必要な場合は7回目以降もありますので、患者様に気に入っていただけるまで、きちんと調整していきます。 -
(7)3DR
注:上記の(1)歯周治療から(5)補綴物まで、すべての工程が終了している状態からの回数です。
1回目:診査、各個トレー用の印象(印象採得するトレーを作るための印象)
2回目:3DRの印象、咬合採得(上と下の顎の位置を決める処置)、必要ならCT撮影
3回目:義歯装着(完成)
注:1回目は他の治療と一緒にやる場合は省略できます。